ものづくりの経営

『何事も挫折、失敗があって初めて成功に繋がる』日越で活躍するイイダモールド

聞き手:編集部・笹山梨紗 話し手:
株式会社イイダモールド 代表取締役 飯田秀夫様

金型未経験から技術者の道へ。27歳で独立。

会社で作業している背景

―――本日はよろしくお願いします。はじめに、株式会社イイダモールド設立までのご経歴について教えてください。

はじめに、射出成形加工を主とする会社に入社し、内製の金型部門に配属されました。金型に関しては未経験でしたので、独学で一から学びました。2年後には金型設計も担当させてもらえるようになり、短期間で金型設計技術を習得できたことに自信を持っておりました。しかし、そんな時、ふと子供のプラスチック製のおもちゃを見て、その作り方が私には分からなかったんです。一種の挫折でしたね。それから、一人前の設計師になるために当時勤めていた会社を退社し、大きな金型を扱う会社に転職しました。同じ金型製造のメーカーでも、扱う金型が違うというだけで、まるで異業種であるかのように今までとは異なる経験ができましたし、その分学びも多かったです。その後、設計を始めて6年、27歳の時に独立し、株式会社イイダモールドを設立することに決めました。

―――どのようにして顧客を増やしていかれたのですか?

私が図面をお客様にお届けした際に、「仕事が手一杯で社内での加工が不可能だ」と言われたので、知り合いの金型製造会社に図面を持参し、作ってもらったことがあったんです。それから、設計事務所でありながら金型製造も請け負うようになりました。当時は、受発注を行うような金型設計事務所が他にありませんでした。また、金型は大・中・小と様々ありますが、一度設備してしまうとそれに見合った大きさの金型しか製作出来ません。つまり、大きな設備を入れたら、小さい製品が作れるかというとそうではなく、大きい製品しか作れないんですね。その点当社では、お客様のニーズに合った設備を持つ会社とタイアップするだけで製造が可能になりますので、イイダモールドならどんな金型でも手配できるという認識がお客様に根付いていったんです。

コスト競争に勝つためにベトナム進出を決意

工場で前に立っている男性がほかのメンバーに指導している

―――貴社といえばベトナムにも拠点をお持ちですが、どのようにベトナム進出を進めていかれたのですか。

まず、「金型を製造していく上で、コスト競争からは逃れられない」と、日本より生産コストが低いベトナムへの進出を決めました。そこで海外人材採用を検討し、応募をかけたところ6名が集まり、早速現地の面接会に参加しました。その中から、1名選出して日本に呼び寄せ、3年半教育し、現地に戻して駐在員事務所を設立しました。そのベトナム人社員を中心に、現地でさらに人材を集め、さらに日本側にもベトナム人を在籍させることで現地と日本とで連携を取る仕組みを作りました。

 

―――ここからはベトナムの人材育成について質問させてください。設計業務を3年半で習得させるために、どのような教育をされたのでしょうか。

設計の仕事をすべて完璧にできるようになったわけではありません。設計業務の中でもポイントを絞って、まずは日本で重要部分を中心に教育し、その後現地に戻った後も仕事を通して教育を続けていました。

 

―――教育をする上で大変なことはありましたか。また、異文化による衝突はなかったのでしょうか。

そうですね。当時採用したベトナム人社員の子は、言われたことが分かっていなくても「はい、分かりました。」と答えちゃうんですよね。結果、後々仕事が進んでいくと認識の齟齬が生じていたり、意思疎通がうまく取れなかったりと、大変なことはありました。相手も話したいことはあるけど上手く伝えられず、分かったふりをしてしまう様子でした。最終的には言いたいことをベトナム語で文章化させて、それを、翻訳ソフトを使って私が理解するというようなことを繰り返していましたね。異文化による衝突についてですが、それはあまりなかったんです。採用した子が明るい性格でしたし、仕事も一生懸命取り組んでいて、社員みんなが可愛がっていました。

 

―――それでは、ベトナム現地に拠点を作る上で大変だったことは何ですか。

事務所を立ち上げたものの、人材定着はなかなか上手くいきませんでした。最初のころは所長が何人も交代してしまいましたね。社員をまとめ上げることができずに辞めてしまったり、まとめ上げる方法が強すぎて社員がストライキを起こしてしまったり、人材定着の壁にぶつかり、順調には進みませんでした。また、チームをまとめ上げられる所長が見つかって、社員も増え、やっと軌道に乗ったかと思いきや、今度は社員がどんどん辞めていってしまうということがありました。何故かというと、日系の設計事務所での経験を持っていると箔が付くんです。自分を高く評価してもらうために、日系の設計事務所を経験してから転職すると、給与が平均よりも高くなるためです。

社員が次々と辞めていく状況の中、この流れを食い止める方法をベトナム人所長と相談したところ、ずっと同じ仕事をさせることが良くないのではないかという結論に至りました。そこで、自分が設計したものがどのように製品になるのか、一連の流れに携わらせ、モノづくりの醍醐味を味わえると良いのではないかと考え、ライセンスを追加し、金型製造を始めることにしました。

 

―――そうは言ってもベトナムで日本品質の高水準な金型づくりを進めるのはとても大変そうですね。

おっしゃる通りです。ベトナムで日本向けの製品を作ることはとても大変でした。国民性が違う中で、日本文化、さらに日本の品質レベルを理解してもらうために、現地のベトナム人社長と何回も口論になりました。その他にも、ベトナム人社長には会社を経営してもらわなければなりません。ただ、当時の社長には、物事の損得を考える観点が欠けていました。その後、経営経験者という条件をつけて新たな日本人社長を雇い、各々の得意とする分野で業務分担し、二人体制で会社を回してもらおうと思ったんです。ですが、新しい日本人社長が来たことで、社員たちが元々居たベトナム人社長を認めてくれなくなってしまいました。私は彼に辞めて欲しくなかったので説得を試みましたが、結局彼は会社を辞めて独立することになりました。

とにかく海外に拠点を立ち上げるのは大変なことばかりでした。でも私は、社長である自分が最も努力しなければならないと思っています。現地に行った時、社員が帰っていく中で最後まで残って会社のシャッターを閉めるのは私でした。社員に社長の頑張りを見せる必要があったんです。そんな中で、飲み会をすると「社長は本当に仕事が好きだね。」と言う社員と、「社長が一番遅くまで頑張ってくれているのを知っている。私たちも頑張ります。」と言う社員に分かれるのですが、必ず後者の人の方が数年後にキーマンになっているんです。企業のトップは誰よりも重い責任を持ち、誰よりもリスクを背負って、誰よりも頑張らなければならないですし、それを社員に行動で示すべきだと私は考えています。

何事も挫折、失敗があって初めて成功に繋がる

男性のリーダーがほかのメンバーに指導している

―――社長が今まで、そして現在も、ここまで頑張ることができる根底には何があるのでしょうか。

そもそも、私はモノを作ることや考えることが大好きなんです。それに、他の人ができなかったことや、難しいと言われていることを聞くと燃えるんですよね。技術とはその習得に何年も期間を要しますが、精神は数秒で強くなれます。例えば、サッカーを上手くなるためには何年も練習しないと、プロになれないと思いますが、「自分は絶対プロになるんだ。誰よりも辛い練習に耐えてみせるんだ。」というような精神や、前向きな根性を持つことに時間はかからないですよね。そういった気持ちを持つか、持たないか、ですので。挫折無くして成長できる人間なんて居ません。絶対に挫折や失敗を繰り返した人間じゃないと成功はできないのです。もし、自分が座っていて手が届かなければ立てば良い、立っても届かないのであれば背伸びをする。背伸びをしても届かなければジャンプすれば良いんです。ジャンプする時には、一回縮んで、沈んでから大きくジャンプする。どこかで挑戦することを諦めてしまったら、そこで全て終わりになってしまいます。何事も挫折、失敗があって初めて成功に繋がるのです。

 

―――5年後、10年後を見据えたときに、何か目標はありますか。

実は、私は55歳で引退しようと思っていたんです。時代が変わるにつれて、社長も交代すべきだと。そして今53歳になりましたが、結局まだ辞められそうにないんですよね。と言うのも、息子は今Jリーガーなのですが、あと数年して現役引退したら会社を継ぐと言ってくれているんです。今後、息子が会社を継いでくれたとして5年後くらいに、彼がどのように会社を運営しているのかを見ることが、今の私の楽しみです。私は昔も今も精神論・根性論で仕事をやってきた人間ですが、息子へと世代交代するに当たって、そのような経営のやり方から脱却したいと考えています。次世代の金型産業の在り方を考え、国内で金型製造も成型も完結できるようにしたい。そして、目の前の仕事に追われるのではなく、先々の仕事まで管理できるようにする。そうして息子が入社した際には、しっかりとした絆で繋がっているお客様を持ちながら、安定した経営ができるように準備しておきたいと考えています。

株式会社イイダモールドについて

 株式会社イイダモールドは技術力の向上に努力し理想を実現するという意思を表した経営理念『カタチある夢創り』をモットーに弊社は1995年に金型設計事務所として創業致しました。

 2017年からはベトナム工場に射出成型機を導入し、商品企画から始まり試作品の製作、金型設計、金型製作、成形加工と一環生産体制が整いモノづくりのトータルエンジニアとして新たな事業展開をする運びになりました。

 今後もお客様から信頼されるパートナーとして、進展していきたいと思います。 

会社名:株式会社イイダモールド
所在地:茨城県筑西市下野殿1028-2
代表者:代表取締役 飯田 秀夫様
URL:http://iidamold.com/