ものづくりの経営

a group of men in suit in a award ceremony

どんなこともまずはやってみる!」チャレンジし続けるキリシマ精工

聞き手:編集部・笹山梨紗
話し手:キリシマ精工株式会社 代表取締役 西重保様

鹿児島県内外で数々の受賞歴のあるキリシマ精工。「資金難で機械が購入できなくても、今ある機械を使って作ってみよう!」と3軸マシニングセンタで5軸と同等以上の超複雑形状の加工を実現する『カーブカット工法』を開発。今では医療分野にも参入し、成長し続けるキリシマ精工の魅力の源についておうかがいしました。

昔から大切にしてきた「ご縁」が今に繋がっている

―――本日はよろしくお願いします。はじめに、創業までの経緯、創業のきっかけをお聞かせください。

まず私が今の会社を始める前のことになりますが、当時は通信部品製造に携わり、大手企業様からのご依頼のもと部品を製造し、各企業様に納品する重要な加工業務を行っておりました。平成二年、私が35歳の時に以前勤めていた会社に入社しました。業績も良く、商売も繁盛し、生産量で言うと鹿児島県内では一番多かったんじゃないかと思います。しかし、バブル崩壊の影響は大きく、会社は倒産し、当時の社員も県内に散ってしまいました。そんな中、当時の外注先の社長様から、起業の依頼がありました。私にとって、その責任は大変大きいものに感じられましたが、ご縁でもありますので、まず入社前に鹿児島に工場を作ってもらうようにお願いをした後、入社することになりました。不景気ではあったものの私が新しく会社を立ち上げたという噂を聞きつけた、以前の会社でお付き合いをさせて頂いていた企業様からご連絡をいただき、新しい取引が徐々に成立し始めました。そこから会社が安定し、以前の会社の仲間が再度共に働いてくれることとなり、今では業績も右肩上がりで順調に進められています。『昔から大事にしてきたご縁』が今こうやって結ばれた形になりましたね。

 

―――以前の会社の従業員の方を再雇用する形で起業されたということですが、創業時の想いを教えてください。

当時、起業する際は大変でしたし、決して余裕があったわけではありません。しかし、昔、同じ釜の飯を食った仲間同士なので「どうにかなるだろう」と特に深く考えずに一人二人と増やしていきました。彼らも、それに応えてくれました。やはり企業は『人』が命。『人』を大事にするからこそ、その人たちがいつか恩を返してくれるんだと思います。

怖がらずに何事も挑戦することが大事

―――業務遂行の中で社員同士意見が食い違うこともあると思います。そういったときはどのように纏めていらっしゃいますか。

そうですね。私はそういった意見の食い違いがあって良いと考えています。皆で意見を出し合い、ひとつずつ挑戦し、失敗すれば見直しをするといったPDCAのサイクルに沿って計画を立て、実行するようにしています。結果を見れば、皆も納得できる部分がありますし、失敗から学びを得ていました。

 

―――社員の方への指導において心がけていることはありますか。

弊社では、新人教育は勿論行いますが、何事にもとりあえず積極的に前向きにトライをしなさいと伝えています。やってみて、失敗して、その失敗の原因を追究する。そうでなければ、同じ問題が発生してしまいますし、その度にお客様に迷惑をかけてしまいます。『怖がらずに何事も挑戦することが大事』だと考えています。

また、違うと思ったことに対しては、違うとはっきり言います。会社の方向性は社員皆に提示しておりますので、それに沿った形で行動してくれていると思います。中には、挑戦することなく諦めかける社員もおりますが、そこは諫めつつ、開発の手助けをします。作業を難しくしている要因を発見すれば、お客様に相談をしながらコミュニケーションをはかり、チームで助け合いながら改良点を見つけ、取り組めるように物事を進めています。

 

―――その他に人材育成において大切にしていることはありますか。

コロナ禍の今では難しいことですが、新入社員の歓迎会のように仕事以外での和気あいあいとしたコミュニケーションを大切にしています。以前の会社でも社員をまとめる際には、一週間に一日だけノー残業デーを設け、社員で様々な遊びを行っていました。やはり、話をしなければお互いの気持ちは分からないので、そういったコミュニケーションを大切にしています。

a very small stainless material

削りを極めた技術「カーブカット工法」で医療分野へも参入

―――それでは、御社独自の技術である「カーブカット工法」を開発するに至ったきっかけを教えてください。

何かを製品化するにあたり、それには多くの工程が必要になります。本来は、各工程で機械が必要となりますが、我々には対応し得る資金力がありませんでしたので、どうにかして材料から部品の一発加工ができる方法はないかと考えた末、あみ出した技術が『カーブカット工法』です。

また展示会に参加することもあり、そこで受けたお客様からのご相談には「必ず応える」という気持ちでおりますので、出来ないことはどうすれば出来るのかを考え、『まずはチャレンジする!』というスタンスでおります。

技術開発までの経緯としましては、はじめ、歯列矯正器具の分野で歯の内側に取り付ける器具開発の依頼を受け、先生と打ち合わせを始めてから5年目である程度形になってきました。また、海外でも販売できるような矯正器具開発を検討しはじめ、そちらもやっと完成に至りました。

 

―――技術開発までにどのような困難があり、どのように乗り越えてこられたのでしょうか。

まずは、仲間と話し合い、加工の仕方について意見を出し合いました。その中のひとつの意見を取り上げて、まずは挑戦しようと開発に取り組んだ結果、成功に繋がりました。多少修正点はありましたが、順調にうまくいきました。私たち開発員というのは、まずは機械を動かし、形にする。そしてまた意見を出し合い、その都度、修正を加えながら完成に近づけていっています。

 

―――「カーブカット工法」を開発したことによる良い変化はありますか。

お陰様で、地元の新聞に掲載していただいたり、鹿児島県から様々な賞をいただいたり、他にも医療関連の企業様から注文をいただいたりと良い変化がありました。ご依頼内容に関しては、難しい注文ではあるのですが自分で作りながらも「すごいな」と感動することもあります。難しい注文内容に対して出来ないと諦めるのではなく、どうすれば出来るのかを考えながら作業しており、チャレンジする機会をいただけて嬉しく思っております。

a group of people inspects machines in a factory

生き残るには「チャレンジ精神」と「先見の明」が必要

―――次からは経営についてお話をお伺いしたいと思います。経営において大切にしている考え方は何ですか。

弊社に入社する方は中途での採用が多かったのですが、その際には、「以前の会社で働いていた時以上に幸せになってやる、その時以上に稼いでやる!という気持ちで来て欲しい」とお話ししています。今も、弊社では「10年後のキリシマ精工、10年後の自分」というテーマで社員に発表をしてもらうことがあります。そこでは皆、「10年後こうありたい、給料についても倍に増やしたい」などと自分の気持ちを表現していますし、会社に関しても、この厳しい世の中でどう生き残るか、技術力や品質向上についてどうすれば良いかなど会社の未来を考えてくれるようになりました。

 

―――それでは、今の製造業界での課題は何だとお考えですか。

日本の製造業でしか出来なかった技術が、他国でも出来るようになっていることですね。それに加え、コストも半分ですんでいる。コスト面で言うと人件費や光熱費にしても、他国とは金額ベースが異なるため、同じ土俵で戦うのは難しいとは思います。あとは、自動化や効率化がどこまで進められるかが争点になると思いますが、私たち中小企業ではそれに必要な資金力も乏しく、対応に関しても少量多品種の会社だと尚更難しい部分もあります。できる限り、国内での生産消費を行っていきたいという気持ちはありますが、海外にも目を向け、世界で生き残るための考え方にシフトしないといけないとも思います。

 

―――今後の製造業界において生き残っていくために必要なことは何でしょうか。

いち早く情報を得て、様々なことに『チャレンジ』していくこと、今後どういうものが流行るのか『先見の明』を持つことが必要だと思います。

また、行政とのお付き合いも重要だと思います。行政とのお付き合いの中で、様々なご依頼案件などお話をいただくことがあります。中小企業は資金力が十分ではないと思いますが、行政とのお付き合いの中で、助成金が受け取れたり、他県から注文のご連絡やご紹介をいただいたりすることもあります。私が行政とのお付き合いを始めたきっかけとしては、会社を始めた時に、ある方から「県に相談した方が良い」とアドバイスをいただいたことでした。そのアドバイスをきっかけに、行政の方も巻き込みながら会社一丸となって開発を進められるようになりました。また、会社の知名度を上げ自社アピールするためには賞を狙うことが有効ではないかと考えました。まずは自分の会社を知ってもらうことが大切だと考え、様々な機会に積極的にアプローチし知名度向上に努めてまいりました。

―――西重様自身は10年後をどのように思い描いておられますか。

『チャレンジ精神』をモットーに新しい分野にどんどん挑戦していきたいです。半導体医療関連は売上げ的には低いですが今後、より盛り上げていきたいと考えていますし、他にもあらゆる分野において問題を抱えた企業様が難しい案件でありながら品質的に安心できる会社はどこかと考えたときに、私たちの会社の名前が浮かぶような、そんな会社にしていきたいですね。私個人としては、「人生は楽しまなきゃ損」というポリシーがありますので、ソフトボールなどの運動もやりつつ、体が動くうちにやりたいことは全てやり、人生を全うしたいと考えています。

 

―――今後はどういった企業様とお付き合いしていきたいですか。

共に成長できる会社様とお付き合いしていきたいですね。大企業だから、中小企業だからということは関係なく、本音で話をすることができて、お互いにコミュニケーションを取りながらお付き合いできる会社様が良いです。商売というのは相手のために尽くすということではないのかなと思います。お取引する会社様の為なら失敗も厭わず、挑戦したいと思います。それくらい、お互い信頼しあえる関係であることが大切と思います。

キリシマ精工株式会社について

霧島市は、薩摩半島、大隈半島の鹿児島県中央部に位置する市で、鹿児島県で2番目の人口規模を有する市であり又、鹿児島空港、九州自動車道その地理的好条件の交通手段が発達している為、ソニー様や京セラ様などのハイテク産業が発展、周辺地域の中核的役割を担ています。
その中で、私共キリシマ精工株式会社は、精密金属加工(光通信、半導体、その他)として難削材、微細加工を得意としており、これまで培ってきた技術で、経営革新計画の認定、又 メーカーの「工場認定」も頂き品質管理力を、活かし信頼、信用をテーマに掲げて、日々努力しております。
今後も今まで以上に、お客様の望まれる品質及び加工技術向上をモットーに、地域社会へ貢献出きるよう日夜努力してまいります。

会社名:キリシマ精工株式会社
所在地:鹿児島県霧島市国分川原918-7
代表者:代表取締役 西重 保 様
URL:https://kirishima-seiko.jp/